われわれは、演劇をやっているのだから

1/24 19:00-21:30 クロスパル高槻 和室 担当:渡辺健一郎












演劇業界で、創作の「プロセス」に焦点が当たり始めて、どれくらいが経つでしょうか。
例えば「ワークインプログレス」などはもはや当たり前に聞かれる様になりました。
これは創作過程自体を外に開いていく、という試みです。
一昔前なら「未完成品を見せるなんて何事か!」という発想も少なくなかったのでしょうから、大きな変化です。
とはいえ、本当にただ未完成品を見せて活動費の足しにする、みたいな態度がとられていることもあるので何ともいえないのですが。
「コレクティブ」という言葉も散見される様になりました。簡単にいえば、誰か主導する人がいる訳ではなく、民主的に創作していく集団の在り方を言います。作品と同等に、あるいはそれ以上に、集団形成の仕方自体を表現しているわけです。

プロセスが前景化してきたことの背景の一つには、創作現場がまっとうに動いているか––このこと自体が問題にされ始めたという事態があります。
演劇の現場は、極めて特殊な権力関係の場であり、人間関係に歪みが生じやすい。これは集団創作に関わるかなり根本的な問題であり、「諸悪の根源」みたいな人を炙り出せば終わるといった話ではありません。
権力を糾弾している人の主導する現場が、相当な暴力で満たされているといったことも少なくないでしょう。
そのため、創作のプロセスが問題にされねばならない。集団創作の場合はかなり顕著ですが、現代において「表現」に関わる人ならば、多かれ少なかれ念頭に置いているはずの事柄です。

ところが、コレクティブを推し進めるならば。これは、決して穏当で楽な道ではないということを肝に銘じなければなりません。当たり前のことですが、「民主的にやろう」と宣言すればそれで達成されるような試みではありません(民主制をうたっているいくつかの国が、まったく民主的とは言えなくなっている現状を見てもわかることですが)。
俳優に演出家が全て指示を出して、トップダウンで全てを決めていく方が、「効率」は良いはずです。いかなる組織であっても、効率を求めて自然とトップダウンになっていく。人数が増えれば尚更です。
その方が心的ストレスがなくて良いと言う俳優すらいる(というか現状多くの人がそう)でしょう。トップダウンを回避するならば、ある意味で不自然なことを、かなり気合いを入れてやらねばならない。

多くの演出家が抱く「みんなの意見を聞いて足並みを揃えたい」、「コレクティブ的な集団を作りたい」、といった欲望はもちろん分かりますが、それをストレートに主張することよって、本当に参加者をケアできるのかどうかはかなり怪しい。
「みんなで話合って平等に決めよう」ということの、なんと暴力的なことか。
話合いが苦手な人は、この「平等」にそもそも乗っかれない。
話合いという手段を当たり前に持ち出して、平等を達成したつもりになってはいけない。
「足並みを揃えるというのはどういうことか」ということから足並みを揃えなければならない、すくなくともその意識を持たねばならない。

別方面から言うならば。「男性社会」で、特別に評価される能力が存在する。これが一定以上のルールとして機能してしまっている。このとき、当のルール自体への懐疑もなく、「女性にも活躍の機会を」とか「男女ともに平等に競争しよう」と、さも正義を装ってうそぶくことのグロテスクさに、男性の側はしばしば気付けない。
権力の中でも最も強力な権力は、「ルール決定/維持」です。「このルールの枠内なら好きにして良いよ」というのは、平等とはいえないのです。

では、どうすれば良いのか? 
わかりません。だからみんな悪戦苦闘しているのです。
ただ少なくとも、決まり決まった型があるのではないのは確かです。こうすればOK、という処方箋は存在しないでしょう。
「そんなこと言うならもうどうしようもないじゃないか」と絶望する程度の心持ちなら、最初からコレクティブなど達成可能なはずもない。
前に書いた、利他的であろうとすることの不可能性、みたいな話にも通ずることなのかもしれません。
いずれにせよおそらくは、クソ真面目に取り組んでも解決する類の事柄ではないのだと思います。手を替え品を替え、斜めから見たり、底をつついたり、重さをはかるなどして、ルール自体と戯れる(=play=演技する)ことが必要なのでしょう。

われわれは、演劇をやっているのだから。



※なお、表現すること自体への苦しさ、懐疑、反省などを起点に、友人と往復書簡を始めました。
8,500字程度の有料記事です。ストレートに宣伝で恐縮ですが、もし宜しければ。

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