dolor,

 1/10 19:00-21:30 高槻市立生涯学習センター　和室　担当：O

新年一回目の稽古です。今回は珍しく戯曲を扱いました。

如月小春『DOLL』

高校演劇で人気で、教師や保護者にはすこぶる覚えの悪い戯曲です。
この話の着想になった事件のことを私は知りませんでしたが、今なら電車に飛び込むのと同じような感じでしょうか。今までのキーワードで言うなら”共同体”が当てはまるかなと思いますが、現代とはやはり異なるので難しい。題材として扱うなら普遍的なものを取り出す必要があると思います。

　　　dolor,

　　　登場人物（仮）

　　　与助
　　　リタ
　　　ノマタ
　　　タモツ
　　　テル
　　　リサ
　　　くるとん
　　　ハシナ

　１０月頃の薄暗い夕刻。緑広がる森の、穏やかな沢のほとり。
　中央には火が焚かれていて、与助、ノマタ、くるとんが火を囲むように座っている。
　しんしんとした中にパチパチと薪が燃える音と虫の声が聞こえる。
　タモツの軽バンが片側のドアを開けたままで停まっていて、テルが助手席から焚き火に向　　　　　　　　
　かって座っている。後部座席のドアが閉じた側の席にリサ。窓の外の、木々の奥を見つめ
　ている。
　タモツはトランクの中を探っている。
　ハシナは拾ってきた木の枝を選別している。その後ろにリタが枝を持って佇んでいる。

与助　俺は、これだな

　与助、手帳を広げる。中には町の地図が入っていて、それを広げる。

ノマタ　何なんそれ
与助　カモのリスト
くるとん　カモ？え？
与助　例えば、このAのとこ。岡田ハツエ、86歳。夫に先立たれ一人暮らし。20代の男をみ　
　　　んな自分の息子だと思い込む。だからテルにどうかなと思って
　　　思って
テル　え、僕？
ノマタ　何に使うのん……？
タモツ　さっそく黒いものが出てきましたね
ノマタ　（与助を指差して）ほら、やっぱり！
与助　指さすな。テルさんどう？
テル　詐欺なの？
ノマタ　お年寄り騙して、楽しいか！？
与助　どうなの
テル　僕は、口下手だしなぁ
ノマタ　やる気にならんとき！
テル　無理ですよ
与助　じゃあここのJのGは？夏場はいっつもドアも窓も開いてて、金なくなっても気づかんらしい。年金暮らしだし、泳がしてる
くるとん　強盗？
与助　窃盗、住居侵入罪。うまくやれば
テル　いらないよ
与助　他の人は？燃やすよ
タモツ　あ、じゃあせっかくなので……

　与助は手帳を火に投げ捨てた。ハシナが木の枝で奥に押し込む。

与助　同業者に渡さないことが目的だから
タモツ　私は詐欺は働きませんよ
与助　タモツさんに渡さなきゃならないのか
タモツ　いいえ、主宰ですので
与助　はい、俺はこれで終い。みなさんどうぞ
タモツ　じゃあ、ノマタさんいかがです？
ノマタ　私。私は……警句を持ってきました
くるとん　警句？
ノマタ　はい。もし聞いたら、持ち帰って、死ぬ前にこれだけはやっとかなあかん、と思うような話です
くるとん　へえ……
与助　後にしてくれ
ノマタ　え！？
与助　タモツさんの主催だっていうからさ、ホントに生きる気になれるようなものを担保に参加してるんだと思ってたけど。説教聞かないといけないのか
タモツ　実を言うと、金銭的に価値が有るものを担保にされたのは与助さん含め数人です
ハシナ　そんなことだろーと思ってました

　ハシナ、選別していた木を火に投げ捨て、リサの隣に座る。

ハシナ　与助さんに賛成です。先に、金目の物を出してくれる方を優先しない？
テル　そういうハシナさんはどうなの
ハシナ　私？私は、占いを
与助　次
ハシナ　金銭的価値はあります。占いの館で働いていましたから
ノマタ　いくらで？
ハシナ　一万二千円
タモツ　取りますねえ
ハシナ　占って差し上げましょうか？
与助　この期に及んで借りなんか作りたくない
ハシナ　借りじゃないですよ。差し上げますから

　一同の誰も乗り気でない。

ハシナ　じゃあ、集団占いにしましょうか
くるとん　そんなのあるんですか
ハシナ　ええ。それにしましょう。私たちの行く末を占う

　ハシナ、トランクの鞄から道具を取りに行く。与助、勝手にしろと椅子を枕に寝転ぶ。

くるとん　タロット？
ハシナ　オラクルです。……じゃあみなさん、これ吸って

　ハシナ、紙巻きたばこのようなものを渡していく。

ハシナ　では加えてください。点火は、希望する方だけにします

　誰も手を上げない。配られた紙巻きたばこのようなものをリタ以外が咥えた。
　瞬間、タモツだけ驚いたように口から離す。

タモツ　これは……
ハシナ　特別な時にしか渡さないものです。タモツさんは海外が長いと聞いていたのでてっ　　　
　　　　きり嗜んでいるものかと
タモツ　いや、どこで？
ハシナ　北海道帯広から車で5時間……
タモツ　はぁ
くるとん　え、何ですか？
ハシナ　大麻

　一同、口から離す。

タモツ　まあ、こんな集まりですし、いいんじゃないですか
ハシナ　売りさばく側のくせに
タモツ　売ってません！

　それぞれ興味本位で咥えたり、匂いを嗅いだり、遠ざけたりする。

ハシナ　じゃあ始めます

　ハシナ、手順を踏みながらカードに触れ、地面にカードを広げる。

ハシナ　では視ていきます……私たちのこれから行く先はどこでしょう……
テル　（持ち寄ったものの話を促して）続きを
ハシナ　質問するから
テル　……
くるとん　私、家なんですよ
テル　家？
くるとん　大阪の吹田に、曾祖父の代からの持ち家があって持て余してるんです。駅も近い　　
　　　　　し坪単価もなかなかだと思います。どなたか使ってみまませんか？

　リサ、興味ありげにくるとんの方を向く。しかしすぐ窓の方に向き直る。

与助　そうそう、そういうことだよ！
ハシナ　私たちがここに集まった根本の原因は何ですか？
一同　……
ハシナ　この経験は私たちに何を学ばせようとしているのですか？
タモツ　我々に聞いてるんです？
くるとん　私、兄弟もいないし結婚もしてないから必要ないんです